遠く、潮騒の聞こえる土地で暮らしてみたいものだという思いをずっと持ち続けてきた。それは、私が海沿いの小さな町で育ってきたこともあったが、ルソーの“自然に帰れ”という思想への共鳴に近いものも背景にある。東京に住まうことになって、その自然に帰るという生活とはやむなく離れたものになっていたが、思いは消えなかった。

 

何年か前に、鎌倉の極楽寺を訪ねた折、偶然に小高い丘の斜面の、繁みに隠れるような空地と出会った。その場所から直接、海を望むことは出来なかったが、二階ほどの高みからは可能のようだった。私の耳はまるでコクトーになって、海鳴りの響きを感じていた。思い切って身辺を整理し、その土地を手に入れることが叶った。今年、そこに描いた家が出来上がる。

 

もう一つの思いが、私の頭の中にあった。『構想博物館』という構想である。人類がこれまで考え、成し遂げてきた様々な“構想”がある。これまでの歴史を創り上げてきたものも、これからの人類の幸せな未来を生み出すものもその構想群に懸かっている。私自身も、国や自治体や企業やNPO等の組織と一体になって、たくさんの構想を考え実践してきたという多少の自負がある。

 

構想に関する書籍や膨大な資料を大学の研究室や自身の研究所など数ヶ所に分散して持っている。これらも一つにまとめて、構想研究と実践の拠点を創ることも、私に残された命題だと思っている。その、極楽寺の環境をそのまま“極楽塾”として、理想の『構想博物館』にしたいという大それた思念が今年から実現に移される。

 

江ノ電の鄙びた駅舎から、極楽塾まで7,8分であるが、途中からうねった細道になって車は入らない。自動車は持たない、携帯電話に携帯されない、コンビニ・ファーストフードには入らない、これらは私のライフウェア(生活作法)であるが、このエココンシャスな生活でも極楽塾では快適なものになろう。地球と地域に余分な負荷を与えない新しいライフステージへの挑戦、すなわち(セカンドライフならぬ)ネクストライフへの挑戦もこれからの大切な実行課題だ。

 

しばらくは、東京と極楽寺の2重螺旋型生活となる予定だ。次なる人生(ネクストライフ)のカタルシスに向かって、今年、ゆっくりと緞帳が上がっていく。

構想博物館 館長 望月照彦